誌面連動企画
京都北部に静かに広がる高層湿原の八丁平へ
八丁平。周回ルートの南東部からの景観
京都の山/北山
京都北部に静かに広がる高層湿原の八丁平へ
文・写真◎南 佑弥(編集部)
峰床山(みねとこやま) 970m 6時間45分
葛川中村~中村乗越~オグロ坂峠~峰床山~三本杉~大悲山口
京都にある希少な高層湿原
京都の北側には、「北山」と呼ばれる山岳エリアが広がっている。その範囲は京都市街から福井県境あたりまでを指すことが多いが、南半分(いわゆる洛北エリア)を北山、北半分を丹波高原と分けて呼ぶこともある。1000m以下の山が連なり、山間部に集落が点在していて、数は少ないがバス便もあるため、山と村を繋ぎながら山旅を楽しむことができる。私も何度か足を運んでいる山域だ。ちなみに、登山エリアとして「北山を発見」したのは、大正時代、京都一中青葉会の今西錦司、西堀榮三郎らの面々だそうだ。
その北山に、京都府標高第2位の峰床山がある。山頂からは比良山地や皆子山を含む北山の山々の展望が良いという。また、峰床山の東側には京都府では稀少な高層湿原の八丁平が広がっていて、かねてから訪れたい場所の一つだった。
1枚目/江賀谷や八丁平で見られたキタヤマブシ
2枚目/バス停からしばらくは、江賀谷に沿って林道歩き
秋を感じながら八丁平へ
出発地点の葛川中村まで、出町柳駅発の京都バスで向かった。しばらくは江賀谷に沿って林道を歩いた。道は単調だが、江賀谷の川の流れや、足元のキタヤマブシ(トリカブトの一種)やキノコが、目を楽しませてくれた。
江賀谷が二俣に分かれるあたりで林道が終わり、登山道になった。道の幅は狭く、徒渉箇所もいくつか出てきた。巨岩が2つ並ぶところで沢を離れ、中村乗越を目指す。傾斜は先ほどより強いが、道は整備されており歩きやすい。足元にはクリの実がポツポツと転がっており、秋の訪れを感じる。峠から抜けてくる少しひんやりとした風を感じて、まもなく中村乗越に到着。開けた峠がとても心地よかった。
10分ほど下ると古道である六尺道に出た。その西に八丁平が広がっていた。イメージしていた湿原の景色より少々茂みが濃かったが、周回ルートをたどり南東部に差し掛かったあたりで、静かで開放的な八丁平の湿原部を見渡すことができた。
八丁平に広がる自然の多様性
八丁平の誕生は約3万年前。南側の谷がせき止められ排水できなくなったことで水が溜まり湿原となった。実は八丁平はかつて燃料用に伐採が行われていた場所で、そのほとんどが二次林だ。しかし、そこに育まれた豊かな自然と美しい景観を守ろうと継続的に保全活動が行われ、2016年には京都丹波高原国定公園の第一種特別地域に指定されている。
ブナやミズナラの木々の中を抜けて歩いていく中で、ふと立ち止まって足元に目をやってみると、木道の横にオオミズゴケやイワヒメワラビ(シダ)などが生えていた(名前はあとで調べた)。一見しただけでは、八丁平の景色は地味に感じてしまうのだが、ここに生息している植物は150種もあるそうだ。もちろん私には一部しか識別することはできないが、見るところを変えてじっくり観察してみることで、その自然の多様さに触れられた気がした。
峰床山の山頂西側に広がる北山の展望
歴史と文化の積み重なる道
六尺道に戻り、ゆるやかな登りを終えると、地蔵が祀られたオグロ坂峠の祠が見えてきた。六尺道は、福井の小浜から京都の出町柳まで続く鯖街道の主要道として栄えた道でもあった。
峠の西側の尾根に乗り、いくつかの小ピークを越えて峰床山山頂に着く。曇り空だったが、西側の大悲山(だいひざん)を含む北山の山並みが望めた。俵坂峠(たわらざかとうげ)を越えて、ジグザグに登山道を下りていくと寺谷川が見え、やがて林道に合流した。
大悲山口バス停に向かう途中、花脊の三本杉を見に行く。三本のうちの一本は高さ62.3mで、日本一高い木として知られている。この三本杉をご神木とする峰定寺(ぶじょうじ)の山門の前を通る。背後にそびえる霊山・大悲山を修行場とする山岳寺院で、平安末期に創建された。山門だけでも周辺とは異なる雰囲気を醸し出していた。山門をくぐりたかったが、通常は立ち入れず、時間もないのでしぶしぶ後にする(11月に御開帳と開門が行われる予定)。
最終バスが発車する20分前にバス停に着いた。北山の自然を一人静かに堪能できた山行だった。
1枚目/江賀谷から尾根を登り切れば、広い中村乗越の峠に出る
2枚目/八丁平の周回ルートで見られる小川の流れが心地良い
3枚目/オグロ坂峠。地蔵の少し手前から峰床山へ向かう尾根に乗る
[登山グレード]技術★☆☆☆☆ 体力★★★☆☆
[DATA]
アクセス●[行き]京阪鴨東線・叡山本線出町柳駅(京都バス52分)葛川中村、もしくはJR湖西線堅田駅(江若交通バス34分)葛川中村 ※京都バスは3月16日~12月15日の土日祝、8月14~16日に運行。江若交通バスは春分の日~12月第1日曜日までの土日祝に運行 [帰り]大悲山口(京都バス1時間40分)出町柳駅 ※11時と17時50分の2便。
コースタイム●[日帰り]葛川中村(40分)林道終点(1時間40分)中村乗越(10分)六尺道出合(40分)オグロ坂峠(40分)峰床山(40分)俵坂峠(1時間)三本杉入口(20分)三本杉(15分)三本杉入口(40分)大悲山口 計6時間45分
2万5千図●花脊
問合せ先●京都市森林文化協会(コースに関すること)☎075-746-2039、京都バス☎075-871-7521、江若交通バス(堅田営業所)☎ 077-572-0374(バス運行時間内)
アドバイス●江賀谷沿いはヤマビルに注意、忌避スプレーの使用を推奨。バスの最終は17時50分と遅いが、コースタイムが長いため、乗り遅れないように。
峰定寺の11月の御開帳日
日程●11月2日、3日、15日
料金●2000円
開門●9 ~15時(14時30分最終受付)
内容●本堂への参拝、重要文化財である十一面千手観音像や金剛力士像などがある収蔵庫の公開、三本杉への行き方案内(同行不可)
問合せ●☎075-746-0036
※山門を過ぎた仁王門から本堂では携帯電話やカメラの持ち込み禁止 ※雨天時は本堂への参拝は中止 ※11月の土日も開門予定(収蔵庫への入館は不可)。予定変更の可能性あり、事前に電話にて要確認
1枚目/密着して聳え立つ花脊の三本杉
2枚目/峰定寺の山門。一般公開されていない時でも、道路沿いから山門は見られる
峰床山周辺のおすすめスポット
花背の伏条台杉
複数の湾曲した幹からなる独特の形が特徴的な巨木。雪の影響で折れ曲がった枝や幹が地面につき、そこから根を張ることで新たな幹を作り出していくのが花背の伏条台杉だ。鍋谷山から東に延びる稜線上に伏条台杉の群落が見られる。
花背リゾート 山村都市交流の森
キャンプやBBQ、カフェ利用が楽しめる1000haの広さを持つ森林公園。三本杉や峰床山への登山の拠点として利用したい。9~17時30分、火曜(7 ~8月除く)・年末年始休、入園無料(各種アクティビティ料金はHPを要確認)、駐車料金500円(7 ~ 8月は1000円)☎075-746-0439
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